2012年6月20日水曜日

「われらの再生の日」書評

あらすじに惹かれたため気分転換にちょくちょく読み進め。
ブログ休止状態で文章あまり書いてなかったので鈍らないように書評。




第98回の直木賞(1988年)を受賞している阿部牧郎氏の新作「われら再生の日」。


全体の印象としては老人の"年の功”と、若者のバイタリティが融合したような主人公。
話はわりとテンポよく転々と物事が進んでいくので読みやすかった。また、主人公・矢部の男心が妙に生々しくそれでいてさっぱりとしているのでクスリとさせる場面も多かった。

ところで、老人は、確立された価値観や今までの経験から来る推測がある。逆に言えば、完成され凝り固まっているともいえる。
一方若者は、価値観が確立されていなく、経験も少ないため推測も甘い(夢見がち)。逆にいえば、何色にも染まっておらず素直で柔軟。
老人と若者にはこのような相反するステレオタイプがある。

この小説の主人公である矢部は60代後半の老人である。そのため、価値観が確立され、推測もなかなか現実的である。
そして、小説の冒頭に酔ったいきおいで風俗店に入り、風俗嬢である若者、ゆりあを触ることがまるで"青春のシンボル"を触ることで若さという生気が自分に伝わったかのように感じられ、遠い昔の自分が若かりし日の記憶が蘇る。
もともと矢部は好奇心が強い性格のようだが、”若さをもらったこと”をきっかけに若者の特徴である柔軟性を手に入れた。
つまり、老人の長所である経験からくる頭脳と、若者の長所である柔軟さが合わさったのである。

読んでいて思ったのは、全体のテーマとして『老人と若者の融合』があるのではないだろうか。

ただ、個人的に気になった点は老人・矢部は若者代表であるおさむに触れることで若者の良さを取り入れた成長があったが、若者・おさむは老人代表である矢部にふれることで老人の良さを取り入れた成長をしているのだろうか。
おさむは、いつまでもやや極端な描写である若者のステレオタイプそのままで、矢部の影響を感じない。最後に成長をしたような描写があるがそれはあくまで姉の死と震災に影響を受けた成長であって矢部はなんら関与していない。
老人と若者の融合をテーマとするならば「若者に触れて成長する老人」だけでなく、「老人に触れて成長する若者」も書いてほしかった。

ところで作中で主人公である矢部は小説家である。そして、「小説の目的は人間を描くことであるのだから、自分がよく知っている人間である「自分」を核にするのは当然である。しかも小説、特に私小説の醍醐味は、書いているうちにさまざまな発見があることだ。」と述べている。
そして、このような文章を書いているということはこの本の作者である阿部牧郎氏もこのような思いを持っているのは確実だろう。
このことから、この小説は作者の私小説に近いもののように思える。そのため、矢部が"現代人"と同じ事をしたときに感じたことは、矢部よりもやや年上ながらも"老人"というくくりでは同じである阿部氏(78歳?)が感じたことを書いているためか、とてもリアルで臨場感があり、「若者である私にとって当たり前のことでも、老人が触れたときにはこのように感じるのか」と感じることができ、とても興味深かった。

また、矢部は「そのような自分という核をもとにした物語ではなく、ストーリー重視な物語が現代の小説」と考察し、あえて核がない小説を書こうとする。と、いうことは作者である阿倍氏ももちろんこのような考察をし、この小説を「できるだけ核を排除したストーリー重視」なものにしたのではないだろうか。
作者の著書はこれがはじめてなので前作などと比較はできないのだが、この「われらの再生の日」を読むと登場人物が「"核"のもと動いている」というよりかは「与えられた役割を演じている」ように見えよくもわるくも厚みが感じづらかった(核がない)。また、ストーリーも転々としていた。つまり、この話は矢部の言う(=阿倍氏の考える)"現代小説"の特徴に沿っているのではないだろうか。

・・・と、推測するのだけれど前述のように比較ができないので今度阿倍氏の他の小説も読んでみようと思う。

ちなみに阿部牧郎氏の公式サイト(ブログ)はこちら
・・・つーか案の定コンテンツ含めて矢部と同じことしてるねw
色々なことに新たにチャレンジしていき、頭の柔らかい矢部はすごいなぁ、と思ったが矢部は架空のキャラクターである・・・が。前述のように矢部≒作者・阿倍氏であるともいえるので矢部に感じたことはそのまま阿倍氏にも当てはまるのだろう。すごいな、と素直に思える。自分も80歳になったときに柔軟に世の中の色々なことにちゃんと触れて吸収できるような老人になりたいと思う。

2012年6月11日月曜日

一時休止

今更ですが、大学院入試が目前にせまってるのでその間停止させてます。
早くて7月2週目、遅くて9月には復活できるかと。